カリブ海にて考え中 Thinking something in Caribbean

豪華客船で起こる色々な事。

悲しいこと

2/8 12:00 Aruba

僕らはその日一日休みだった。

いや、厳密に言えば僕は朝に2人ほど患者さんを治療して、午前11時から終日オフだった。

僕らを乗せた豪華客船はその日カリブ海に浮かぶ、オランダ領の島アルバに朝の8時から夜の11時まで寄港していた。

船乗りにとって夜の街に繰り出せる機会は少ない。

オーバーナイトと呼ばれる一日その港に寄港している日か、今回のように出港時間がとても遅い日くらいしか夜の街に出て、ビールでもひっかけて夜風にあたるという事はできない。

夜の街に繰り出せる機会など1ヶ月に1回あれば良い方だ

 

そんな中僕たちは買い物をして夕方からビーチに向かい、ビールでも飲みながらイーグルビーチと言われるアルバ有数のビーチでカリブ海のサンセットを見る予定だった。

カリブに大体飽きてしまった僕だったがこの日は珍しくほとんど持ち歩くことのない重い一眼レフをカバンに入れ、僕らは12時ごろ船を出発した。

出発して間もなく僕が財布を部屋から持ってくるのを忘れた事に気づき、10分ほどみんなの足を止めてしまった。

船から歩くこと5分、街につくと彼女たちはパーティー用のドレスを買ったり、ZARAで洋服を買ったり、香水、水着を買ったり思い思いにショッピングを楽しんでいた。

 

f:id:muranak:20190213232425j:plain

 

僕はここ数年で同僚の付き添いという名目でMACやビクトリアシークレットに何回行っただろうか。大体同僚と出かけるとそういう所に付き合う事になる。

4時間ほど僕らはショッピングを楽しんだ後、昼食を取る間も無くタクシーでビーチに向かった。

 

2/8 16:00

タクシードライバーは親切だった。

カリブのタクシードライバーは島にもよるけれど7割くらいのドライバーがぼったくってくるが、彼は良心的な価格を僕たちに告げ、彼の親切心から人がごった返している所よりも静かで、それでいて低価格でご飯が食べれて、カクテルが楽しめる場所をイーグルビーチの中でも選び、降ろしてくれた。

ただこの時点でクイーン(一緒に出かけた同僚で今回の主人公)の機嫌はよろしくなかった。

どうやらクイーンにとってのビーチは人が少なく、まばゆいほど透き通った海では無く、人でごった返し、DJが大音量でプレイしていて海に入ると1m先も見えないほどの濁った海をビーチと定義しているようだった。

着くやいなや、食べ物をオーダーしたのにも関わらずクイーンはここを早く移動しよう。と言って聞かない。

とりあえず僕らはテーブルに届いたばかりの食べ物をタクシーに持ち込み、クイーンの求めるビーチへ向かった。

 

2/8 17:00

着いた先はまさにクイーンの求めてるビーチそのもので、人で賑い、ゴーグルを付けて海に潜ってみても海水が濁りすぎていて全く何も見えなかった

求めていたビーチにたどり着いたクイーンはご機嫌そうにしていたが、彼女は朝から何も食べていなかったので、とりあえずレストランでフードを頼んでくるといって、シャビちゃん(南アフリカ出身の今回の主要人物)と一緒にレストランへでかけた。

僕らはその間、木陰でビーチチェアに並んで寝そべっていた。僕は寝そべってヤシの木が風に揺れるのを何も考えることもなくただ眺めていた。吹き抜ける風にやさしく撫でられながらゆっくりとした時間を過ごしていた。今考えればこの時間はなんて幸せだったのだろう。

 

2/8 17:30

シャビがなんだか慌てた様子で僕らの元に戻ってきてカバンを漁っている。聞くと

"クイーンの財布を私が預かっていたはずなのに見つからないの。"

それを聞いた僕らもいてもたってもいられなくなり、一緒になってカバンを探したり何度も僕らがチェアを置いている場所からレストランの道を往復したり、財布を探した。

しかし結局見つける事が出来ずにもう一度みんなのカバンを探していると、レストランにシャビを置いたクイーンが戻ってくるやいなや僕らに

"なんでこんな事が起こるの?!彼女はどれだけStupid なの?!

考えられない?!私のお金が取られたらどうしてくれるの?!"

と怒り狂っていた。

シャビが気になったのでレストランへ向かうと1人レストランでポツンと冷めたピザを前に食べることも出来ず泣いていた。

僕は隣に座って誰にでも起こる事だから気にしないでいいよ。

と彼女を慰めていた。

誰にも食べられる事のない焼き立てのピザをシャビの肩越しに見ていた。※あとで他のクルーメンバーが美味しくいただきました。

 

 

2/8 18:00

あと一時間でサンセットという所で怒りの収まらないクイーンがカード会社にカードを止めてもらうために船へ帰ると言い出した。

もちろん僕らはIt will be okayとかThere is nothing to do here, you have to calm down.訳:おちけつ

 

とか言ったり、色々ありとあらゆる手を使って彼女を落ち着けようと試みた。

クイーンは僕らが何か励ましの声や、アドバイスをする度に瞬間湯沸器のように反論し、その反論が一通り終わると憔悴しきったようにうなだれた。

この怒ってはしょげるループを繰り返すのもしんどくなってきた事と、クイーン一人もしくはシャビと二人で帰すわけにいかない事もあり、結局僕らはみんなで帰るという選択肢をとった。

 

 

 

僕はビーチでサンセットを見たいのでここに残ります!\(^q^)

 

 

 

あの時そう言えていたら僕は空気読む日本人を卒業したと言えるのだろうか。

 

f:id:muranak:20190213232219p:plain



 

帰り際足早にビーチを去っていく同僚の背中を見ながら必死の想いで取れた写真がこの一枚

 

f:id:muranak:20190213232340j:plain

 

2/8 19:00

帰りのタクシーの中の空気はとても重かった。ナメック星に向かう宇宙船の中でトレーニングを積んだ悟空の気持ちがわかった気がした。

車内に広がる冷え切ったピザの匂いが僕らをより一層悲しくさせた。

 

 

船に帰ってきた所でもうとりあえず大丈夫だろうと思い、なかなか言い出しにくい雰囲気であったが、勇気を出し僕はもう少し街をぶらぶらしてから帰る事を告げた。

そして他のスパガールと一緒に夜の街に繰り出した。

 

 

2/8 21:00

その後はスタバでネットしたり、レストランでカラマリフライとビールを飲んだりして、夜の街を楽しんだ。

セルフィーを撮ろうとしているとおじさんがやってきて俺が撮ってあげるよ。と言われ携帯をあずけて写真を撮ってもらうと2ドル請求された。

まぁ、なんだかんだあったがその日の夜は楽しかった。

 

 

f:id:muranak:20190213232513j:plain

夜の船はかっこいい

 

 

翌日Sea day

次の日シーデイ、シャビは病欠していた。

昨日あれだけの事があったし、彼女は初めての船だし、こんなドラマがあったらそりゃまーショックだよな。とか思いながら自分は淡々と仕事をこなした。

夜最後の患者さんを終えて、遅れてミーティングに向かうとマネージャーが今日の売上が低すぎる事に憤慨し、僕ら一人一人に反省文のようなトレーニングログを書かせた。

そしてミーティングの最後にまるで呼吸するかのような自然な流れで

"シャビは明日帰る事になりました。"

とだけ僕らに告げた。

それを聞いた僕らはもちろんえー?!っとなったが事の詳細を知ってる人もいれば、全く知らない人もいたようだ。

その夜同僚の中でシャビに声をかけるようクイーンに促した子がいたようだが、彼女は頑としてそれを拒んだらしい。

チームの中でもシャビが弱すぎるという意見と、クイーンが言い過ぎたという意見に分かれていた。

シャビはこの日のうちに帰りの飛行機を予約していて、結末から言うと本当に次の日の朝にドミニカから南アフリカに帰ってしまった。

 

2/9 ドミニカ 11:30

クルーの避難訓練中に降りつづいた雨は避難訓練が終了するとすっかり晴れに変わり、太陽はカリブの海を青く照らすと共に綺麗な虹が出ていた。

僕は避難訓練が終わると外に出かけ、刺すような強い日差しを全身に浴びながらもうこの船にシャビはいないのか。

という事を考えていた。

 

 

 

これまでもたくさんの同僚が契約の途中で辞めるのを見てきた。

でも今回のケースは普通と違う。多くの場合、彼らは自分の意思で辞めていく。

カードを落としさえしなければシャビは今でも普通に船で働いていただろう。

 

f:id:muranak:20190213232032p:plain



 

もう少し37歳のクイーンが22歳のシャビに対して優しさを持てていたら。

誰にだって失敗はあるのだ。僕だって当日の朝のように財布なんて3回出かけたら1回は忘れるし、無くすことだって何回もあった。

ただ幸運な事に自分の財布だったので自分で感情の処理をすれば良いだけだったのだ。

 

 

 

あの日クイーンの気持ちを抑えるために僕らはクイーンに共感したし、実際一緒に寄り添い帰船した。

 

 

理解とは分かる、分からないの二択しか存在しないのだろうか。

もっとグラデーション的に存在するものではないのだろうか。

理解する方も、される方ももう少し寛大になっても良いのではないのだろうか。

確かにクイーンも可哀想だ、被害者である事に変わりない。

だからこそ僕らは彼女の気持ちを理解しようとしたし、寄り添ったつもりだった。

 

どうせあなた達に私の気持ちなんてわからないという態度では何も解決しない。クイーンはカードを無くしたシャビや僕たちに対して気持ちは全て分からないだろうがこうやって心配し、寄り添ってくれている事にある程度理解をしめすべきではないか。

そう思うのは僕のエゴだろうか。

 

 

 

結局クレジットカードは被害にあっておらず、クイーンの心配は杞憂に終わった。

 

 

 

シャビは僕が英語のリーディングが全く出来ず、船のオンライントレーニングをクリア出来ない時、親身になって親切に教えてくれた。

 

あとから聞いた話では事件当日から翌々日の帰る日の朝まで彼女は精神的ショックからキャビン(自分の部屋)に帰る事が出来ず、医務室で過ごしたそうだ。

シャビの荷物は他の同僚がパッキングした。

 

 

 

誰にもサヨナラを言わないまま帰りの飛行機でシャビは何を思うのだろう。

帰りの飛行機の窓から見える眩いばかりの青いカリブ海を見て何を思うのだろう。

そして帰宅し乱雑にパッキングされたスーツケースを開けてシャビは何を思うのだろう。

自分がとった行動は正しかったのだろうか。もっとあの時クイーンに何を言われようとシャビの立場になって声をあげた方が良かったのだろうか。

 

 

 

そんな色々なモヤモヤを抱えた僕を乗せて、船は何事もなかったかのようにまた次の目的地へ進んでいくのである。

 

リョウタ@豪華客船鍼灸師 (@muranasyo) | Twitter

 

最近はノートで書いています! 良かったらこちらもどうぞ。

note.mu